予知を超える予測

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 僕には、あらゆるものが見えている。
 日常を取り巻く物理現象、無数の人々が取る動き、世界中の経済。
 人、金、心の動き、ありとあらゆる自然現象でさえ。森羅万象は公理と論理で構成された世界の言葉で記述され、人知によって日々解明されていく。

 だから、僕にはあらゆるものが見えている。
 カクシャが人を傷付ける未来が。論理上帰結しうる確実な未来として。

 力を持つ者と持たない者。この溝は容易く埋められない。
 その溝を埋めようとする賢者もこの世には多くいるだろう。だが悲しいことに、世の中賢者ばかりではない。

『良識はこの世で最も公平に分配されているものである』

 それはデカルトの言葉だが、生憎その良識が生まれつき分配されていないような輩もいる。
 それが個人というものだ。
 ……だから、いさかいは止まないのだ。

 だから、僕は理想郷(ユートピア)を作ることにした。

 ……尊い犠牲を、彼等に忘れさせないために。


 銀の髪が、さらりと音を立て白衣の上を滑る。
 無数のものが積み上がり、混沌とする机を目の前にして一人の白衣姿の『青年』が大きな革製の黒椅子に深く腰掛けていた。
 男か女か。それは分からない。ただ、どう見てもその姿は20歳程度の人物。だから『青年』としか言いようがない。

 手には10面ダイスを複数個持ち、何か思案を巡らせるように『青年』はそのダイスを華奢な指で弄んでいた。
「……『実験』の成果は?」
 『青年』は思春期を迎える前の少年のような声で、傍にいる黒づくめの男にそう問うた。
「何件かは首尾よく進んでいます。ただ……」
「ただ?」
「数件、やはりFiVEの妨害を受けました」
 色よくない返答。一瞬、空気がしんと鎮まる。カチャカチャとダイスがぶつかる音だけが響いたが、『青年』は特に表情を変えず淡々と一言。
「それは仕方ないね」
 想定の範囲内だよと言わんばかりに肩を竦め、『青年』は更に問う。
「特に被害は無かったんだろう? 僕の指示通り撤退はしたんだろ?」
「ええ。身柄を拘束されたり殺されたりした者は一人としていません」
「なら、それでいい。実験段階なんだ。尻尾さえつかませなければ構わないよ」
 カクシャが存在する組織、FiVE。そこには夢見と呼ばれる未来を予測するカクシャが複数所属していると思われる。
 夢見がいる以上、どんなに先手を取ろうともこちらの取る作戦は結果として後手となるのだ。イレブンの構成員はそれに過去何度と苦い思いをしたか。
 しかし、自分は違う。

 考えられる全てのケースを判断し、無数の事象の中からありとあらゆるパターンを抽出し、脳内で試行する。
 だからこそ、彼等に先手を打てる。
 現に彼等は自分の部下の身柄を拘束することが出来なかった。さぞ悔しい思いをしただろう。
 ――それでいい。

 『青年』はダイスをいじる手を止め、小さく微笑んだ。
 その淡い桃色の唇に浮かぶ笑みは今までの少年らしいものではなくて、むしろ妙齢の女性を彷彿とさせる妖艶なものだった。


 『青年』の呼び名は『ラプラスの魔』

 現代物理学の誕生によって消滅した筈の化け物であり。そして――

 過去と現在の全てを知り、未来を全て予測する超越的な魔物だ。


関連依頼:
『二つの予知・01』 『二つの予知・10』 (ST:品部 啓