大妖一夜

ゲームで遊ぶにはサイドメニューよりログインが必要です。

ユーザー登録がお済でないお客様は新規ユーザー登録をお願いします。

※旧作「バロックナイトイクリプス」でプレイされていたお客様も新規に登録が必要です。
※非ログイン状態でも一部コンテンツは閲覧可能です。


新規ユーザー登録



●それはとある日の夕暮れの気まぐれ
「そろそろ頃合いかもな」
 それは熟れた果実を鑑定するかのような男の声だった。
「継美を倒した連中だ。二十年も経てばちったぁ張り合えるぐらいにはなっているだろうよ」
 言ってその声は呵々大笑する。いい遊び相手を見つけたとばかりに。
「そ奴らなら、数年前に某に挑み、敗退した」
 別の声が答える。人間の言葉ではあるが人間の声帯ではない獣の声が。
「あン? なんだよテメェ、そんなことしてたのか。ったく、せっかくここまで待ったのに」
「まあまあ大河原殿。正当防衛ゆえに仕方ないではないですか。人間の側から襲ったのですから」
 さらに割り込む別の声。こちらも人の言葉ではあるが、何処か生気を失った幽霊のような声。
「うっせ。ケモノの車掌の分際で口出しするんじゃねよ。ったく、オレはこれ以上待たねぇからな。暇なんだよ」
「行くのなら付き合おう。慈悲を与えて逃がしたとはいえ、獲物を他者に狩られるのは矜持に反する」
「それでしたらワタクシめも。いえいえ、お手伝いさせていただきますよ」
 男と、獣と、幽鬼の声が響く。
「おめえはどうする、『髄液啜り』『後ろ』の?」
「遠慮しますわ。後ろで見ておきます」
『後ろ』と言われた女の声が断りの答えを返す。
 そして『髄液啜り』と呼ばれた者は、嬉しそうに頷いて立ち上がった。
「つれないねぇ。折角『  』が集まったっていうのに」
「貴公は享楽が過ぎる。役割を果たすのが『  』の意義」
「いいではないですか。時間はいくらでもあるのです。とはいえ継美様は遊びが過ぎて滅ぼされたようなもの。遊びすぎるのもまた問題かと」
「…………」
 四者は歩を進める。女は無言でその後ろを追った。

●AAA北海道支部
「まさか、ここを狙ってくるだと!?」
 AAA北海道支部長真崎一等は部下からの報告に動揺していた。
「『氷柱の騎士』藤堂二等を始めとした『鶴翼部隊』は壊滅! 『水陣城壁』大野二等が応戦していますが、劣勢は火を見るより明らかです!」
「当然だっ! 相手はあのヨルナキだぞ……!」 
 真崎一等はあきらめの声を乗せて机を叩く。数年前、相対した大妖。それがAAA北海道支部を襲っているのだ。
「何故だ。今宵は半月だというのに……!? いや、今はそれを考えている時ではない。総員撤退! 他支部に連絡を回せ!」
「それが……他支部でも――」

●AAA東京支部
「貴様が『斬鉄』か。だが鉄なら俺とて斬れるぞ」
 AAA東京支部を襲撃した一体の妖。その襲撃者の名を聞き、金田二等は豪語した。とはいえ豪語するの無理はない。事実、金田二等は鉄を斬ることが出来るほどの剣豪だ。AAA内でも随一の戦闘能力を有している。嘘か真か七星剣幹部とやりあったとまで言われている。
「そうかい。なら来な。退屈させるんじゃねえぞ」
「『刃金の』金田、推して参る!」
 手にした日本刀の神具を構え、金田二等は妖との距離を詰める。疾く間合を詰め、刀を隠し抜刀する。わずか一瞬の間に三閃。それが言葉通り鉄すら切る威力を込めた斬撃だ。並の妖なら生きてはいない。だが――
「つまらねぇな」
 その妖は心底つまらないとばかりにため息を吐く。こりゃ期待外れだ、と表情が語っていた。
「教えてやるよ。『鉄を斬る』って意味をな」

●AAA岡山支部
「『シャープシューター』が寝返っただと!?」
 AAA岡山支部の主砲ともいえる射撃チーム。それが自分達に牙をむいている。
 その報告を受けて岡山支部長の木村二等は顔を青ざめた。まさか彼らが裏切るとは……。
 だが、現実はさらに非情だった。そして非常識だった。
「いえ……彼らは『改造』されました……妖の部下に」
 双眼鏡から見えるのは、肉塊。人であったものを潰し、砕き、継ぎ接ぎしたモノ。
 複数の目で獲物を見て、骨そのものを銃と弾丸とする。そんな『肉団子』の妖。
「あれが……。あれが『シャープシューター』だと、言うのか……」
 人の原型など留めていない妖。元部下だった何か。
 そしてそれは、今もなお増え続けている。

●AAA福島支部
「妖の数、確認できるだけでも五〇〇を超えます! さらに増援中!」
「ランク3を筆頭に雪崩れ込んできます!」
「こちらの防衛部隊はどうなっている!」
「『山茶花』『山女魚』『紅花火』の三部隊は連絡が途絶えました! 『四季舞』『百手菩薩掌』『鉄血戦車』で堪えていますが戦況は芳しくありません!」
「これが『黄泉路行列車』……! どれだけの妖をその腹の中に蓄えているというのだ!」
 机を叩くAAA福島支部長佐久間一等。AAA福島支部の戦力の六割が半日で潰えたのだ。圧倒的な物量作戦に、絶望しかない。
「報告です!」
 さらなる報告。佐久間一等の絶望はさらに積み重なる。

●「後ろに立つ少女」
 そんな様子を見ている少女がいた。
 圧倒的な獣の狩り。
 圧倒的な男の斬撃。
 圧倒的な狂気改造。
 圧倒的な幽鬼の数。
 その力の差は歴然だ。否、彼我する事すらおこがましい。例えるなら山と喧嘩をするようなものだ。人が何をしようとも山は動じない。山が少しでも動けば、人間は飲み込まれてしまう。
 魂を削り、抗しようとする者もいた。
 しかし? どのような奇跡が連中を退けられる? 圧倒的な身体能力? 爆発的なエネルギー? 全てを貫く武器を生む?
 ああ、それは有効だろう。それがただの妖なら。
 目の前にいるのは、妖ではない。人間の想像をも超える存在。それに人間如きがイメージできる奇跡が通じようものか? 時空すら切り裂く奇跡を風を払うように跳ね除け、五十年かけて鍛えた剣術に魂を込めても、児戯のようにあしらわれる。
「……これが、大妖……!」
 呟き倒れるAAA隊員。
 少女はそれを見て瞑目する。
「おやすみなさい、人間。貴方達は届かなかった」
 少女は人間を殺さない。少女は人間を助けない。
 いまはただ、後ろで見ている。

●大妖一夜
 青天の霹靂。AAAを襲撃する大妖。
 それは災厄。自然災害の如く破壊と死をもたらしていく。
 人間如きが抗える術はない。

 それでも人は抗うのだ。
 わずかでも命と希望をつなぐために――