≪Vt2016≫かっぱと執事のバレンタイン


●かぱちゃん都会へゆく
「かっぱ……」
 繁華街の路地裏を、てぽてぽと歩くまるっこい生き物が居た。頭にはお皿、つぶらな瞳に平べったいくちばし――黄緑色のしっとりとした肌をしていることを除けば、それはペンギンの赤ちゃんのようにも見える。
「かっぱ、かぱー」
 が、この鳴き声の通り、彼は古妖――それも温泉を住処にするかっぱであった。本来ならば人里離れた山奥に住んでいるのだが、何らかの目的があって都会へとやって来たらしい。唐草模様の風呂敷を大切そうに背負って、そのかっぱはきょろきょろと、何かを探しているようだった。
「……くっ、都会を我が物顔で飛び回り、生ごみを漁るカラス共め。妖より先に貴様らを駆逐してくれようか……!」
 ――と、其処に、微妙にくたびれた様子で恨み言を呟く男がひとり。白いスーツは所々擦り切れ、綺麗にセットした筈の髪はぼさぼさ――具体的に言うと、カラス達の襲撃を受けたように乱れていた。
「ええい、しかしこうしている間にも、何処かで妖が跋扈している恐れが……ん?」
 ぶつぶつと独り言をのたまいつつ、路地裏を歩いていた男は、其処でようやく自分の足元でうろちょろしているかっぱに気付いたようだ。そのまま無言でしゃがみ込んで、彼はかっぱのほっぺたをむんずと掴む。
「かぱ!」
「何だこのちみっこは。貴様も妖の手下か?」
 かっぱは必死でその手から逃れようと、ぱたぱたと両手を振り回すが――圧倒的にリーチが足りていない。そうしている内に男は、かっぱの背負っている風呂敷包みに気付いたようだ。
「何だこれは。まさか何処からか盗んで来たのではないだろうな?」
「かっぱ! かっぱ!」
 風呂敷包みを奪われまいと、ひしっと縋り付くかっぱ。男は「うーむ」と唸りつつ、かっぱごとひょいと摘み上げてお持ち帰りすることに決めたらしい。
 ――その男は、伏見稲荷の勾玉を奪おうとした土御門と言う隔者であり。路地裏には悲しげなかっぱの鳴き声が、いつまでも響き渡っていた。

●執事になってみませんか
「大変だ、かぱちゃんが攫われたようだ」
 F.i.V.E.の司令室に現れた『銀閃華』帯刀 董十郎(nCL2000096)は、真剣な顔で開口一番にそう告げた。何でも先日、かっぱの温泉から不思議な勾玉が発見されたそうで、以前からお世話になっている覚者の皆へプレゼントしようと、代表のかっぱが学園へと向かったようなのだ。そのかっぱの名前は、かぱちゃんと言って――F.i.V.E.の有志の助けを借りて、相撲勝負に勝って一人前のかっぱになったと言ういきさつがある。
「が、市内の繁華街でふっつりと行方をくらまして……夢見の情報によると、土御門と言う隔者の仕業らしい」
 土御門玲司と言えば、伏見稲荷の勾玉泥棒だった男だ。彼は、妖も古妖も関係なく退治しようと妙な使命感に燃えているようなので、温泉かっぱが友好的な古妖だと伝えても聞き入れないだろう。最悪、かっぱの勾玉を奪って破壊してしまう恐れがある。
「……それに何より、捕まったかぱちゃんが酷い目に遭わされる可能性がある。手の空いている者はどうか協力してくれ!」
 ――そんな訳で、覚者たちは夢見の予知で判明した現場へと急行したのだが、其処は何故か執事喫茶だった。
「かっぱ、かっぱー!」
「な、貴様ら……何故ここが分かった!?」
 来店したお嬢様がたに囲まれ、かっぱ見知りでぷるぷる震えているかぱちゃんと、驚愕の表情で固まる玲司。しかし一行が、かぱちゃんを返すように詰め寄ると、玲司は不敵な笑みを浮かべて胸を張った。
「フッ、そんなことならば、オレ様と勝負をするが良い! そうだな……現在ここもバレンタインフェアで忙しいらしいから、どちらが執事としてお嬢様がたを満足させられるかで決めようではないか!」
 びしっと指を突き付ける玲司は、店長に「いいよな」と言わんばかりの無言の圧力を送る。どうやら彼は玲司の知り合いらしく、分かりましたと言って溜息を吐いた。
「まぁ、玲司さんの無茶は今に始まったことじゃないですし……イベントで盛り上げてくれるなら、話題にもなりますのでお手伝いしますよ」
 ――そんな訳で、突発的に執事喫茶で勝負開始。お客様は自由に執事の接客を受け、最後にどの執事が一番素敵だったかを投票する。F.i.V.E.のメンバーの誰かひとりでも、玲司の票を上回れば勝利となる。
「……だが、そう簡単に勝てると思うなよ? このオレ様は偉大な陰陽師なのだが、世を忍ぶ仮の姿としてホストをしているのだからな!」
 つまり、彼の本職はホストらしい。言わば接客のプロな訳だが、此方はかぱちゃんを取り戻せるかどうかが懸かっているのだ。絶対に負ける訳にはいかない――!
「かぱー、かぱー」
 執事とホストの違いを教えてやる――覚者たちはそう決意して、かぱちゃんの応援を受けつつ執事対決に挑むこととなったのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:柚烏
■成功条件
1.土御門玲司との執事対決に勝利する
2.なし
3.なし
 柚烏と申します。温泉かっぱ&土御門ふたたびの依頼です。バレンタインフェアで賑わう執事喫茶を舞台に、勾玉とかぱちゃんを賭けて執事対決を行うことになります。勝負開始直後からのスタートになります。

●執事対決
全員が執事に扮し、お客様(お嬢様)のお世話をします。ちなみに女性も執事です。来店したお客様は、一番「きゅん」と来た執事に投票、誰か一人でも玲司より票を集められたら勝ちとなります。ちなみに衣装や必要なものは、お店の方で用意してくれます。

●執事喫茶
繁華街にある、小さめですが雰囲気の良い喫茶店です。現在はバレンタインフェアで賑わっており、バレンタインに関連したチョコを使ったメニューや、執事からお嬢様への逆チョコサービスなども行われているようです。
※ちなみに店長さんは玲司と顔見知りのようですが、場所を提供するだけで勝負に口出ししたりはしません。

●執事をやるにあたって
・ある程度、方向性を決めると印象が強くなります(例・『俺様ドS執事』『眼鏡執事』『子犬系執事』など)。その上で、どんな風にアピールするか、どんなタイプの女性の支持を勝ち取るかなどなど、より具体的であれば良い結果を出せます。
・勝利条件は『誰か一人でも玲司に勝つ』ことなので、特定の誰かに票を集中させるよう、サポートに回ると言う作戦もアリです。
・神具庫で売られている『チョコ(義理・友達・本命)』を装備していれば、逆チョコサービスを行って判定にプラスを得られます。ただし、どんな感じでチョコを渡すかが重要になります(ツンデレっぽい執事が義理チョコを渡すとか、忠実な執事であれば友達チョコを渡すなど。必ずしも本命を渡すことがベストではない可能性もあります)。

●土御門玲司
伏見稲荷の勾玉依頼にも出てきた隔者です。妖と古妖、等しく退治すべきとの信念から、かぱちゃんを拉致。勾玉は良からぬものだと信じており、破壊しようと思っているようです。本職はホストで、妙に顔が広いです。意外と律儀な面もあり、勝負に関して卑怯な真似はしません。ちなみにアイドルオーラ持ちのようです。

●かぱちゃん
山奥に住む古妖・温泉かっぱのひとりで、以前F.i.V.E.の皆さんにお世話になりました。今回、温泉で発見された勾玉を渡そうと山を下りたところで、拉致されてしまいました。

●NPC
董十郎が同行します。完全裏方に徹しますので、サポートが必要であればこき使ってください。

 基本は楽しくわいわいなノリで楽しんで頂ければと思いますが、良い結果を出すにはきっちりと作戦を立てて挑む必要がありますので頑張ってください。それではよろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年02月17日

■メイン参加者 8人■


●執事対決は甘く熱く
 温泉で発見された勾玉を渡す為、都会にやってきた古妖――温泉かっぱのかぱちゃん。しかし彼は不幸にも、隔者によってお持ち帰りされてしまう。
「な、貴様ら……何故ここが分かった!?」
「なんでわかったって、まあこっちにも色々あるのよ!」
 と、隔者――土御門玲司のツッコミに勢いよく切り返すのは『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)。夢見の予知によって彼女たちは、執事喫茶に乗り込んで行き――かぱちゃんを賭けて執事対決を行うことになったのだ。
「……うん。よくわかんないけど、勝てばいいのね! その勝負のった!」
 びしっと指を突き付け、華麗に宣戦布告する数多に『月々紅花』環 大和(CL2000477)も頷いて。何が何でも勝負に勝たないと、と静かに闘志を燃やす。
(囚われのかぱちゃん……とても心配だわ。かぱちゃんを怖がらせた罪は重いわよ)
 そんな大和と同じく、温泉かっぱと触れ合ったことのある者たちも、かぱちゃんの境遇を案じているようだ。現在、お店預かりとなっているかぱちゃんは『かっぱ質』と書かれたダンボール箱に入れられ、お会計のレジの横にちょこんと乗せられている。その様子を悲痛な表情で見守る『デジタル陰陽師』成瀬 翔(CL2000063)は、拳を震わせて怒りを露わにした。
「あんな人畜無害な奴捕まえて、怯えさせるなんてっ!」
 お客さんやお店の執事さんは「かわいい」と言った様子であたたかな眼差しを注いでいるようだが――見知らぬ場所にぽつんと置かれている状況に、かぱちゃんは不安そうにぷるぷると震えている。
「かぱちゃん、今助けるからなっ!」
「かぱちゃーん。絶対助けるから、そこで待っててねー!」
 翔と一緒にかぱちゃんのピンチに駆けつけた、京極 千晶(CL2001131)も安心させるように声をかけると――見知った顔を見つけたかぱちゃんは、瞳を潤ませて「かっぱ!」とこくこくと何度も頷いた。
「ぜってー勝って、んで、何考えてんのか問いただしてやるっ!!」
「べ、べつにカッパを助けるつもりなんてないんだからね、誤解しないでよね!」
 拳を上げて翔が気合を入れる中、まるで捨て犬のような様子で此方を見上げてくるかぱちゃんに、慌てて数多がぷいっと顔を反らす。しかし彼女も、何だかんだ言いつつ一緒に来てくれたのだ。そのことを頼もしく思う『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)は、そっと眼鏡の奥の瞳を和らげて決意を新たにした。
(かぱちゃんが怖い目に遭うと悲しむ者も多いし、何より私も非常に心が乱れる。気を引き締めて……私なりの執事をさせていただこう)
 本やテレビの知識でしか知らないが、精一杯やろうと誓う行成。一方の赤祢 維摩(CL2000884)と言えば、どうやら悪友に押し込まれる形での参加となったらしい。
「ちっ、馬鹿に押し込まれてやる羽目になったが、忌々しい。馬鹿が馬鹿なことをする場とは面倒だが」
 渋々、と言う感じで悪態を吐く彼だが、その眼差しは真剣なもの。精々付き合ってやろう――そう言いつつ、維摩の態度には一切の妥協が無い。
「奇遇だな、俺も昔ホストやってたんだ。もう十年近く前だけどよ」
 そんな中、飄々とした態度で――且つ凄みのある表情を浮かべる『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)へ、玲司は臆さずに笑みを返した。
「ふはは、年期はあるようだが……しかしオレ様は現役! うむ、十年近く前は陰陽師として目覚め、必殺技の開発に余念がない頃だったか……」
 ――つまりアレだろうか。中学二年生辺りに発症する病に罹っている真っ最中だったのだろうか、この陰陽師ホストは。生活費を稼ぐ為に、自分が必死だったことを思えば、何処か懐かし――いや、そんな綺麗に纏められるかと、誘輔は遠い目をした。
「うむむ、まさか執事対決をすることになるとはな」
 こう言うのはイケメンの仕事な気もしないでもない、と『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は険しい顔で腕を組むが、かぱちゃんを助けるためにも頑張らねばなるまい。
 ――と、何を思ったのか、其処で『銀閃華』帯刀 董十郎(nCL2000096)がゲイルの肩を叩き、ぐっと親指を立てた。どうやら「イケてるから大丈夫」と励まそうとしたらしい。
「……ああ。じゃあ先ず、イベントにスタッフとして参加する上で、注意などあれば教えて貰えるだろうか」
 そんな訳で気を取り直して、ゲイル達は店長に注意事項を確認するが、お客様を丁寧におもてなしすることを第一に考えれば、後は自由とのことだった。
「執事なんてやったことがないけど、かぱちゃんや勾玉のためにも頑張らなくっちゃね」
 ――さあ、いよいよ勝負開始だ。早速皆は一列に並んでお出迎え、代表としてゲイルが一歩前に出て、優雅に荷物とコートを預かった。
「……来店するお客様にもイベントをしっかり楽しんでもらって、楽しい一時となるように努めないと、な」

●初々しさにときめいて
 この執事対決の勝利条件は、誰かひとりでも玲司の票を上回ること。ならば、互いに協力しつつ其々の持ち味をアピールして、お嬢様たちの支持を集めなければならない。
(ふん、無駄は省くに限る)
 そんな訳で、早速維摩はリサーチを開始――さりげなさを装い、お客様の分析を始めていった。誰が好みか、どんな態度が好きか、見た目と内面の違いがないか等、彼女たちの好みが判り次第、それとなく近い傾向の仲間に指示を送る。
(……成程、お嬢様がたの好みと言うのも、色々あるのだな)
 一方の行成も、お嬢様たちの会話にそっと耳を傾け、丁寧に情報収集を行っていた。誰が好みかは勿論、今誰に傾いているか、何を欲しているのか等――得られる情報量はばかにならない。そうして得られた情報は、翔の送受心を通して全員で共有される。
「似合いますかねぇ? ……うーん、ちょっと変な感じかな」
「大丈夫、バッチリだって! ところで執事って何やるんだ? 具体的によく知らねーんだけど」
 先ずお嬢様たちのお相手をしようと動いたのは、千晶と翔。ふたりとも元気な少年、と言った雰囲気で――千晶は子犬系執事、そして翔は執事見習い路線で攻めていこうと決めたようだ。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
 元気いっぱい、けれど背伸びして頑張って敬語を使っていると言った感じの千晶に、ギャップ萌えを感じたお姉さま方が「きゃあ」とときめく。人懐っこい感じの笑顔も、子犬らしい無邪気さを湛えていて、ボーイッシュな少女執事に反応は上々のようだ。
「とりあえずオレも……おかえりなさいましぇ」
 千晶に習い、翔もお出迎えの挨拶をしようとするが――噛んでしまった。敬語苦手だっ、と内心でやきもきしつつ、それでも失礼がないようにと言い聞かせ、何とか彼は敬語をものにしようとしている様子。
(あ、わかった! 最後に『です』をつければ敬語になるな、完璧だっ!)
 ――そんな訳で、続けて翔が掛けた言葉と言えば。
「お茶はいるか? ……です」
(かわいいいいい!!)
 その不器用さが、却って年上お姉さまの支持を集めているとは知らず、翔は走り回る勢いできびきびと、お嬢様がたを席に案内した。そうしてあたたかな湯気を放つ紅茶を、可愛らしいブラウニーと一緒に差し出す。
「……お嬢様は、どんなタイプの執事がいいと思う? あ、思いますか?」
「そうね、どの執事さんもそれぞれに素敵だけど……私はキミみたいな子が、元気があって可愛いと思うわ♪」
「その、将来そう言うタイプになりたいと思っ……ってオレぇ!?」
 翔の淹れた紅茶を美味しそうに頂く女性は、OLさんだろうか。年上のお姉さまににっこり微笑まれた翔は、思いっきり声が裏返り敬語も忘れてしまっていた。
(うああ、何だこれ……すげー恥ずかしい……!)
 女受けが良く分からないながらも、何とか翔は千晶と一緒に執事として振舞って。そうして最後には、声色変化で色んなタイプのイケボを披露すると言う、ちょっとしたサービスも行ってお店を盛り上げたのだった。
「あ、これ……小遣い少なくてこんなのだけど……」
「お嬢様と仲良しでいられるようにと思って、買ってきました。受け取ってください」
 翔は精一杯の義理チョコを、そして千晶は可愛い友チョコを、逆チョコサービスとして最後に手渡す。ふたりの心遣いが伝わる贈り物に、お嬢様たちは「頑張ってねー」と手を振ってお店を後にしたのだった。

●俺様ドSはご褒美です
 一方、有能さを如何なく発揮して、きびきび動いているのは維摩だ。居心地が悪くならない程度に風格を漂わせ、主の為に尽くすその姿にあちこちから溜息が聞こえてくる。
「おかえりなさいませ、お嬢様。……ふん、胸を張って歩いたらどうだ?」
 堂々とした様子で席へ案内する維摩――その俺様な物言いに、お嬢様は「その冷たい眼差しがたまらない」とばかりにうっとりしているよう。
「何を気後れしている? 俺の主人なのだろう、相応しく振る舞え」
(きゃああああ!)
 けれど、あくまで執事としての立場を崩さない彼へ、お嬢様は大興奮。壁にがんがん頭を打ち付け、ぜーはーと呼吸困難に陥っていた。
「ふん、主らしくどっしり構えればいい」
 よろよろと席へ着いた彼女へメニューを押し付けた維摩は、相手がもたついているのを見て「馬鹿か」と一蹴する。
「ふん、決められないのか。本日のお勧めはこれとこれだ」
 何だかんだ言いつつ、てきぱきと注文を決めてくれる彼は、もしかしたらツンデレなのだろうか。しかも渋々と言った様子で、待ち時間にメニューの説明もしてくれて――!
「何、お嬢様の無聊の慰めになるなら光栄なことだな?」
「え、えへへ……」
 すっかり維摩にめろめろになったお嬢様は、夢心地のまま蕩けるフォンダンショコラを食べて。きゅん死にしそうな所へ更に、維摩が怒涛の追い打ちをかける。
「ふん、逆チョコ? 貰えるだけの度量を示せたとでも思っているのか? せめて相応しい振る舞いができるようになってから囀れよ」
 まあいい、及第点はくれてやる――そう言い放って維摩が渡したのが、義理チョコだと言うのがいじらしい。
「それでは行ってらっしゃいませ、お嬢様」
 ――そうして態度を一転、完璧な執事として送り出す維摩に、お嬢様は「ぐはぁ」と盛大に鼻血を噴いて、執事の素晴らしさを改めて実感したのだった。
(……何かアイツ、妙に手馴れてんな)
 何処までが演技で地なのか良く分からない維摩の様子に、負けてはいられないと誘輔も気合を入れる。彼の狙いは、ツレない男に尽くしたがる女――自分で言ってて哀しくなるが、態度のでかい男に貢ぎたがる客と言うのは結構多いのだ。
 そして、接客業にはコツが要る。客が望むもの、望む役割を臨機応変の柔軟さで演じなければ、客の心は掴めない。これはきっと、ホストだろうが執事だろうが同じことだ。
「はしたないですよお嬢様。軽い女は安く見られます」
 きゃーイケメンじゃーん、と黄色い声を上げて誘輔に近づいて来たのはギャルっぽい女子。それをぴしりと跳ね除けた後、彼は眼鏡を押し上げつつそっと彼女の耳元で甘い言葉を囁く。
「……それから先はプライベートで」
 え、マジ! とお嬢様は顔を輝かせるが、ここは飴と鞭を使い分けるのがいい。そう判断した誘輔は慇懃無礼な敬語であしらいつつ、自分からの接触は極力控えて乙女の心を煽っていった。
「おや、ハンカチが……」
 紅茶を差し入れリラックスタイムを演出する中――ふとお嬢様のバッグから落ちたハンカチを、誘輔は何食わぬ顔で拾い上げ、そっと義理チョコを包んで渡す。
「貴女の調教が仕上がって俺の理想のお嬢様になったら、その時に本命をお渡ししますよ」
 お嬢様の目を見て微笑み、けれどその声色はぞくりとするほど危険で艶やかだ。最後に左手薬指の甲に軽くキスをして、誘輔は「マジヤバい!」を連呼するお嬢様を笑顔で見送った。

●乙女の園に百合は咲く
 突発的に始まった執事対決イベントだが、普段とは違う執事さんがお出迎えしてくれるとあって、評判は上々のようだ。次々にやって来るお嬢様たちを、ゲイルと行成は丁寧におもてなしして――ふたりの一歩引いた、これぞ執事と言うべき王道の振る舞いに、初めてのお嬢様もリラックスしている様子。
「チョコレート……私などがお嬢様に差し上げてもよろしいのでしょうか?」
 威圧感を抑えるべく、膝をついて同じ視線で話しかける行成――その慎ましやかな態度に、お嬢様は「きゅん」とときめいて彼を見つめている。と、あまり褒められた行為ではありませんが、と行成が差し出したのは友チョコだった。
「お嬢様のお願いとあらば特別です、どうか上の者にはご内密に」
 ――そして別れ際、票を入れてくれるなら此方側で一番票が集まっている者にと、さりげなくお勧めのアピールをすることも忘れない。ゲイルの方もお嬢様を優しくリードし、頼もしい大人の執事として安心感を与えていた。
「貴重な時間を私に割いてくださったお礼でございます。お受け取りくださいませ、お嬢様」
 逆チョコサービスもしっかり行ったゲイルは、周囲の状況にも目を光らせつつ――手持ち無沙汰そうにしているお嬢様の元へ、急いでフォローに向かっていく。
(わ、やだ、にーさまコス!)
 と、一方で数多は大和と一緒に男装をして執事に変身。片目を隠して後ろで結んだ髪形に、最愛のにーさまのようだと瞳を輝かせていた。そんなうるわしき男装の麗人たちに、お嬢様たちは眼福とばかりに熱いまなざしを注いでいる。
「大和、怪我をしてるじゃないか」
 百合百合なムードを盛り上げるべく、数多はそっと、大和の手を取って指先にキス――彼女が纏う華やかなオーラに騒然となった店内は、まるで格式高い女子校のようだ。
「数多さんありがとう。けれど今度は貴方の唇が汚れてしまったわね」
「勘違いするなよ……怪我をしたまま、お嬢様に給仕とかするわけにはいかないだろ。……心配してないと言えば、嘘になるけれど」
 顎クイして数多の唇を指で拭う大和に、少しデレた様子で気にする素振りを見せる数多。その執事同士の禁断の関係に、お嬢様たちは鼻息を荒くして大興奮だ。
「あっちこっち色々、大変だろ。甘いものでも食べて、少し体を休めたほうが、効率がよくなると思っただけだから」
 ――勘違いすんなよ、とツンとしつつも、逆チョコを手渡すことも忘れない。数多の渡した義理チョコに続き、大和は友チョコを。素直にお嬢様を綺麗と賛美し、自身をあくまで執事のひとりとクールに振舞う彼女に、お嬢様は「ぽっ」と頬を染める。
「……美しいお嬢様がいたとしても、本物の気持ちを押し付けるわけには参りません。ですがせめて、こちらであればお許し頂けるのではないかと」
 そうして店内の雰囲気を確認した後、数多は悠々と執事をこなす玲司の元へ近づき、客から引き離すついでに話を聞こうとした。先ずは、仲間のリキヤとアリスはどうかと尋ねた所、ふたりは現在仕事中だと言う答えが返ってきたのだが――。
「あのさ、あのかっぱ見つけたのはあなたの方が先なんだから、勾玉だってさっさと奪えばよかったのに。なんでそうしなかったの?」
 鋭いところを突いた数多の問いかけに、玲司はうっと言葉に詰まる。まあ、あれだ。迷子で不安そうにうろうろしている姿に、ちょっぴりほだされていたのだが、陰陽師のプライドにかけて言う訳にはいかない。
「貴方だってホントは、そのかっぱが悪い奴なんて思えないんでしょ?」
「ふ、そんな訳あるか! 相手は妖怪だぞ、尻子玉とか抜いて恐ろしいことになるのだぞ!」
 ――多分、漫画か何かの知識なのだろうが、真剣な顔で力説する玲司へ、数多は言わずにはいられなかった。
「……全部が全部悪だなんて、思考停止に過ぎないもの」

●帰ってきたかぱちゃん
 こうしてお嬢様たちの投票は終了、トップは百合路線で店内の熱い視線をさらった大和であった。維摩と誘輔も熱狂的な支持を集めていたのだが、似たタイプである玲司と票を食い合い――結果、玲司の票を抑えることに成功したようだった。
「……くっ、今回は貴様らに勝ちを譲ろうではないか。だが次はこうはいかんぞ、覚えとけ!」
「おー、今度飲もうぜ」
 そんな訳で、ちくしょーと捨て台詞を残して玲司は逃げ去り、誘輔がひらひら手を振って。無事かぱちゃんは皆の元へ戻ってきた。
「かっぱー!」
「かぱちゃん大丈夫? 怪我してない?」
 ひしっとしがみ付くかぱちゃんを抱きしめた千晶は、いつかきっちり土御門に伝えられたらと思うのだ。人間の中にいい人が居るように、妖怪の中にだって良い子たちはいるのだと。
「かぱちゃん、覚えてるかしら? 心配したわ」
 そして大和も、慈しむようにかぱちゃんを抱きしめて安心させ、きゅうりで作ったブーケ――名付けてキューカンバーブーケをプレゼントする。瞳をきらきらさせる彼へ大和は、人間の世界では特別な日に贈り物をするのだと教えてあげた。
「かっぱ、かっぱ!」
「お、これがかぱちゃんからの贈り物か?」
 そして早速、風呂敷包みから何やら取り出したかぱちゃん。彼の頭を撫でていた翔は、それがほんのり黄緑色をした勾玉であることに気付いたようだ。
「かぱー!」
 ――さあ、慌ただしい対決も終わったことだし、皆で学園へ帰ろう。最後に数多はそっと、大和に友チョコを手渡した。
「えへへ、いつもありがとね。大好きよ」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし