柿男



「白昼堂々と、駅前で女子高校や女子中学生に向かい、むき出しの『尻に棒を突っ込んで、その棒を舐めてくれ』、と激しくアピールしていた古妖が、突如発生したランク1の妖数体に襲撃されるから、今から行って助けたついでに礼節を教えてやってほしい。以上」


 超早口で行ったいまの説明を、もう一度初めから丁寧にやって欲しい。そう言われて、久方 相馬(nCL2000004)は目を泳がせた。
 あれをもう一度、言わなくてはならないのか……。
 とくに難しい内容ではないので、あれで勘弁してもらいたいのが本音だが、集まっている覚者たちの雰囲気から察するに、とてもそれで納得してくれそうにない。
 仕方なく、相馬は集まった覚者たちの頭の遥か上に意識を集中して話し始めた。
「もっとシンプルに要点だけ話すな。よく聞いてくれ。妖に襲われる古妖を助けて、助けた古妖に人間社会のモラルってやつを教えてやって欲しい。詳細はテーブルの上の書類に。以上!」
 慌て部屋を出ようとしたが、覚者たちに出口をふさがれてしまった。
「ちょ……マジで夢見たまんまなんだって!」
 嫌々、指令室の奥に押し戻される。
「妖に襲われるのは、『柿男』っていう古妖だ。昔からいる柿の精霊でいいやつなんだ。ほんとうだぜ。ちょさと、変わっているだけでさ……」
 相馬は地元では有名な『柿男』のエピソードを語りだした。

 木の高いところになっている柿を食べたいと思っても、手が届かないのであきらめていた娘がいた。娘は毎日、毎日、柿の木を見上げては溜息をつく。
(「ああ、美味しそう。あの柿が食べたいなぁ。甘いだろうなぁ」)
 そんな娘を不憫に思った『柿男』はある日の夜、人の姿で手に棒を持ち、娘の枕元に立った。願いを叶えてやることにした。
「……続き、言わなきゃダメか?」
 気配に目覚めた娘に向かって『柿男』は木の棒を手渡すとくるりと回って尻を向けた。その棒を尻の穴に入れて舐めてみろ、という。
 ここで話が終わったなら、ただの変態である。終わっていなくても変態である。
 しかも、変態は伝播した。
 娘は素直に柿男の尻に棒を差し込むと、抜き取った棒の先を恐るおそる舐めてみた。
 立派な変態である。
 W変態。
「棒は甘い味がしたんで、娘は夢中になって――。まあ、柿だし。誰かが傷ついたとか、死んだとかって話は伝わっていない。娘は美味いものがたくさん食べられて満足、『柿男』は特殊な性癖が満たせて満足。ウィンウィンで終わる……いいお話だろ」
 最後の台詞を、相馬はカーペットのシミを見ながら言った。
 ではなぜ、『柿男』はいまさら現代によみがえったか?
 まったくの謎らしい。
「けど、昔と今では事情がぜんぜん違う。いまの日本でおっさんが、女子高校や女子中学生に尻を見せて『棒を突っ込んで舐めてくれ』なんてこと要求したら……しかも女子高校生たちが、その通りの事を人前でしてしまったら……絶対、トラウマになるだろうな」
 事前に通報されたところで相手は古妖。警察は手を出せない。
 しかも、『柿男』の尻から出る甘い匂いに惹かれて、カラスと猫と犬の妖が大量発生するという。
 というわけで、ファイヴの出番。

 妖を退治し、変態的『柿男』と女子高生たちを助け、『柿男』にモラルを守って暮らしていくことを教えて欲しい。
 受ける、受けないは貴方の自由である。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:そうすけ
■成功条件
1.古妖・柿男を襲う、ランク1の妖をすべて退治する
2.動画や写真の拡散を防ぎ、女子高校生たちの名誉を守る
3.古妖・柿男を説得し、モラル的に正しい行動を取らせる
●場所と時間
昼すぎ。晴天。
某東北地方の都市のとある駅前。

●古妖・柿男
突然、現代によみがえった古妖。
「柿」の美味しさをPRする使命に燃えている。
スイーツ好きの若い女性にターゲットを定めて、昔ながらの方法で懸命にアピール。
そのアピール方法が今回「問題視」されているのだが……。

※以下、すべてラーニング不可。
 【甘匂】……尻から出る甘い匂い。強い誘惑効果がある。発言者や古妖には通じない。
 【甘味】……全身どこも甘い。尻がとくに甘いらしい。幸福感を与える。
 【人変化】……子供から老人まで、人の姿に化けることができる。
  何故かオッサンに好んで化ける。


●ランク1の妖……8体
 襲撃するのは『柿男』のみ。
 周囲にいる女子高校生たちや野次馬は無視しているが……。
 ・烏……4体【ついばみ/物近単】【飛行】
 ・猫……2体【ひっかき/物近単】
 ・犬……1体【かみつき/物近単】

●女子高生2人と女子中学生5人
 甘い匂いに惑わされてすでに手に棒ほ持っている。
 妖たちが襲い掛かってきても、その場から立ち去ろうとしない。
 それどころか、一緒になって柿男に襲い掛かっている。

●野次馬……30名ほど
30メートルぐらい離れて円形状に現場を囲っている。
ほとんどが男性。
ニヤつきながらカメラで写真や動画を撮る不届きもの多数。


●STより
よろしればご参加くださいませ。お待ちしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(3モルげっと♪)
相談日数
8日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
3/6
公開日
2016年12月28日

■メイン参加者 3人■

『五麟マラソン優勝者』
奥州 一悟(CL2000076)
『ゆるゆるふああ』
鼎 飛鳥(CL2000093)


 冬は寒い。
 ごく当たり前のことだが、その場だけは北風なんのその、異様な熱気でムンムンしていた。
 飢えた妖のむれと棒きれを振り回す女子高生と尻を出した変態(古妖)、そしてそれらを大きく取り囲み、カメラやスマホを向ける下心むき出しのやじうまたち。
「うわぁ、思っていた以上にカオスな状態になっているぜ」
 『マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)は着ぐるみのジッパーを引き上げながら泣き言を漏らした。
「いまからあの中に突っこんでいくのか……」
 丸く赤いキャップを鼻にかぶせて溜息をつく。トナカイの首輪につけられたベルが揺れてカランと音を立てた。
「とっとといって早く終わらせるのよ」
 サンタ衣装に身を包み、白い袋を肩に担いだ『ゆるゆるふああ』鼎 飛鳥(CL2000093)が、一悟の背を叩く。
「準備、いい?」
 桂木・日那乃(CL2000941)は、後ろにある駅前商店街の事務所に向けて手を振った。ポインセチアの飾りがついたサンタの帽子は飛鳥とお揃いだ。
 この時期、日本中がそうであるように、某市の駅前も、それなりに凝ったクリスマスイルミネーションが飾られている。こちんまりとしたロータリーを囲む商店や遊興施設からは、賑やかな音楽が歩道にまで漏れ、聞こえていた。
 現場に着いてすぐ、三人は駅前商店街の事務所に駆け込んで協力を求めた。大騒ぎにすることなく、通行人の安全を確保しつつ、楽しく妖退治をしたいと告げ、クリスマスBGMの放送と衣装の着替えの許可を得たのだ。
 日那乃の合図を受けて、突然、駅前にクリスマスソングが流れだした。いや正確にいうと、なにか別の曲から変わったのだが、その前になにがかかっていたかはちょっと3人の記憶にない。たた、意識に引っかからないようなごく静かな音楽が、街頭に取りつけられたスピーカーから流れていたはずだ。そう、ゲーセンの電子音と女子高生たちが発する甲高い声と妖たちの鳴き声にかき消されてしまう程度の音量で。
「突撃……いく、よ?」
「OK。ソリよ走れ! レッツゴー、トナカイなのよ!」
「え、ソリなんか用意してねぇぞ、てか、あったとしても乗せていかねぇからな!」
 クリスマス全開モードの駅前通り、トナカイ一悟を先頭に飛鳥と日那乃のキューティ・W・サンタズは、まっ昼間からギンギンキラキラ光るイルミネーションの下を駆けだした。


「ファイヴ・プレゼンツ! ハッピー☆クリスマスショー! 始まるよ♪」
 飛鳥が拡声器のマイク片手に全身からアイドルオーラを発散させ、元気よくショーの開催を告げる。ちなみに肩掛け式の拡声器は、駅前商店街の事務所に常備されていたものをお借りしている。年末年始、夜の防災運動で使われているものだ。
「ドンパチ……危ないから、うしろ……下がって、見て、ね」
 日那乃が淡々と拡声器でやじうまたちに注意する。頭の上をゆるりと旋回する守護使役のマリンさんも クリスマスバージョン、金と赤のリボンで花飾りをつくり、ハートの上に飾っている。
 ちなみに飛鳥の守護使役、ころんは頭にミニツリーとミニプレゼントの山を乗せている。
 やじうまたちや通行人の中には発現した人が何人かいて、かわいいと声を上げて写真を撮るものがいた。
 すかさず飛鳥が声をかける。
「今からトナカイとわたしたちが華麗に妖を退治するのよ。いっぱい写真を撮って応援してください。そのまえに、余計なデータは全部消してくださいなのよ♪」
 無表情で女子高校生たちに清めの水を振りかけている日那乃に変わって、マリンが尾ヒレを振って泳ぎ回り、守護使役の見えている人たちに愛嬌を振りまく。
「正気に、戻った? 泣かないで……大丈夫。あとでいい思い出になる、から……たぶん……」
「そこ! あすかたち以外の人は取っちゃダメなのよ! プライバシーの保護なのよ。いうこと聞かない 悪い子のカメラは、クリスマスの精霊さんが食べちゃうぞ~なのよ♪」
 飛鳥は白い袋の中からダミーのスマホを取り出した。高く掲げられたダミーのスマホを守護使役のころんがばくばくと食べる。
 すると、守護使役が見えない一般人たちから一斉にうめき声が上がった。みな次々に、スマホから、デジカメから、映像データを消していく。
(「オレたちが来る前にどんなけ撮ってたんだ? ……てか、何人かは……突っ込んだやつを舐めてるよな、確実に」)
 女子高生がおっさんのむき出しの尻に棒を突っ込んで取り出し……その様子をリアルに想像しそうになって、一悟は慌てて頭を振った。
(「おえっ、だぜ」)
 気を取り直し、トナカイの角をつけた守護使役の大和に声をかけて、特大のプレゼントボックスを出してもらう。騒ぎの元凶である古妖・柿男を一時、プレゼントボックスの中に避難させるためだ。
 一悟はプレゼントボックスの蓋を開いた。
「おらっ! そのおっさんは、お前たちの喰いもんじゃねえ、どきやがれ!」
 犬と猫の妖を足でけり払い、女子高生たちに何かが付着した棒で頭や背をぶっ叩かれつつ、尻をむき出しにしてうずくまりアンアン呻いていた柿男を肩に担ぎ上げた。
 上空から柿尻めがけて急降下してくるカラスの妖を、トンファーを闇雲に振り回すことで退け、急いでプレゼントボックスに戻る。
「な、なななな、なんだなんだ、いきなりなんだお前さん?!」
「いいから中に入れ!」
 柿男が何か言う前に、プレゼントボックスの中に投げ入れ、蓋をしめた。
「日那乃、あとは任せた! 飛鳥、そっちは頼むぞ!」
 すぐに壮絶な戦いが始まった。
 奪われた食べ物を取り戻そうと、女子高校生たち、そしてカラス、犬、猫の妖が一斉に独り占めを目論んだ(?)トナカイに襲い掛かる。
「ち、ちょ……順番に、順番……あ゛ー!! 日那乃、飛鳥! ヘルプだ、ヘルプッ!」
 トナカイ一悟はたちまちのうちに黒い影の山の下に埋もれてしまった。
「はい、下って。下がって」
 日那乃は、プレゼントボックスの前に築かれた山に腕を伸ばし、匂いの元が断たれてだんだんとかけられた誘惑から目覚めはじめた女子高校生たちを引きはがしていった。
 女の子たち全員が離れたところで、山の最下部から炎の柱が吹き上がった。
「てめーら! 全部まとめてローストチキンにしてやる!!」
 ズタズタのボロボロになったトナカイ一悟が炎を背負いながら立った。鬼気迫る表情で喚き散らしながら、真っ赤に燃える鼻……ではなく、トンファーを振り回す。
 飛鳥は歌いながら恵みの雨を降らせて、燃えるトナカイの鎮火を図った。
「お姉さんたちはローストしちゃダメ、ちょっと落ち着くのよ、一悟♪」
「……犬と猫、カラスもチキンにはならないけど。ま、頑張って」
 日那乃はプレゼントボックスの側面を軽くノックした。
 蓋が少しだけ持ち上がって、暗い中に二つ光る眼が浮かび上がる。
「こんにちは、柿男さん。ちょっと、いい?」
 暴れ回る一悟を横目に、日那乃は金と銀の星飾りをつけた黒い翼をパタパタと動かして体を浮かべると、柿男と目を合わせた。
 閉じようとした蓋を手で持ち上げ直し、箱の中をのぞき込む。取り出した一枚の合成写真をひらり、函の中に落とした。出発前にファイヴのパソコンで、飛鳥とふたりでわいわい言いながら作ったイケメンの合成写真だ。
「……それ、よく見て。そんな感じの……イケメンに変身して欲しいの。できる?」
「あ、え? あ、あのぅ……お前さんたちは?」
 日那乃は目蓋を落として半眼になると、柿男の質問を無視して言った。
「できるの? できないの?」
「できるけど……嫌だと言ったらどうするね?」
「燃す」
 柿男はひっ、と息をのんで身をすくめた。
 飛鳥が駆け寄ってきて、白い袋をプレゼントボックスの中に闇雲に投げ込む。中で柿男に当たったらしく、ぐへっ、とくぐもった悲鳴が聞こえた。
「変身したらその中の衣装をちゃんと来てくださいなのよ。尻だし禁止なのよ! あ、中に懐中電灯(単二×三)入ってます」
「いたたっ!? 懐中電灯? ってなに、これ重い。角が額に……って、あ、あのぅ……尻は隠さなきゃ駄――」
 柿男が言い終える前に日那乃はプレゼントボックスの蓋を締めてしまった。パタパタと飛んで箱に上がり、小さなお尻を落として縁に両足を垂らす。可愛い重石。
 送受信でプレゼントボックスの中にいる柿男に話しかける。
(「スイッチ、入れて。光が出る。五分、待つね。変身したら教えて」)
(「え、なに? すいっち? あ、まぶしっ!!」)
 日那乃は顔を上げると、「だ、め。準備、できるまで下がっていて」、とやじうまたちの輪を指さした。プレゼントボックスの蓋の隙間から漏れ出た甘い匂いに引かれ、再び女子高生たちが距離を詰めてきていたのだ。
「もうちょっとしたら、イケメンのサンタさんがプレゼントをくれる、から」
 そのやじうまたちは、スマホやデジカメの液晶画面を通じて歌い踊る飛鳥の姿を一生懸命追いかけている。
「えい、なのよ♪」
 飛鳥はリボンを結んだスティクの先から龍の形の波を飛ばして、一悟の頭をつついていたカラスの妖たちを撃った。
 すかさず日那乃も空気の刃を飛ばし、水龍にのまれたカラスの妖を切り裂く。
 細かく砕けて散る水滴にイルミネーションの光が乱反射して、黄金色に輝く光の滝を作った。
 やじうまたちが称賛の声あげて拍手する。
 あとから輪に加わった通行人や、正気に戻った女子中学生、小学生たちは、炎を駆使して派手に妖と戦うトナカイ一悟に声援を送っている。
 時々、声援にこたえて笑顔で手を振りかえしているが、さすがに一人で複数の妖の相手はきついようだ。少しずつ、一悟の動きが鈍ってきていた。
 目で女子高校生たちの動きを監視しつつ、日那乃は一悟の頭上から癒しの滴を滴らせた。
(「あ、の~上のお嬢ちゃん? こんなんで、どう?」)
 プレゼントボックスの上から降りて、蓋を持ち上げた。
 中をのぞき込む。
 首を少しかしげて考え、それから蓋をして飛鳥を手招きした。
「わたしは、いい、と思う。鼎さん、見て」
「ほいほい。あすかが検分している間、日那乃ちゃんが代わりに歌ってくださいなのよ」
「……やってみる」
 ちょうど、曲調が変わったところだった。アップテンポの賑やかなメロディから、しっとりとして雪の華が風に流れていくようなメロディになる。
 日那乃はゆっくりとプレゼントボックスの前に進み出た。拡声器のマイクをONにして、口に持っていく。

 ――ふわり空から落ちてきて、手のひらの上で解ける雪♪
 ――はかなくせつない、この胸の恋心♪
 ――消えずに届いて、あなたの心に♪
 ――メリー・メリー・クリスマス♪

 優しくほんのり甘い歌声に民衆がうっとりと聞き入る。
 後で一悟と妖までもが戦いをやめて聞き入っている。
 天までが聞き入って、粉雪を落とし始めた。
(「やるのぅ日那乃ちゃん……なのよ。とってもいい声なのよ♪ あすかも負けていられないのよ」)
 飛鳥はプレゼントボックスの中の柿男に指で作ったOKサイン―柿男は指の形が何を意味するのか解らず、ただ曖昧に笑った――を見せると、「合図したら蓋を開けて顔を出してくださいなのよ。何をするかは日那乃ちゃんから説明があります」、といって蓋を閉じた。
「一悟、こっちは準備できたのよ。さっさと倒しちゃってください」
「か、簡単に言うな!」
「はあ、仕方ないのよ。あすかが手伝ってあげるのよ」
 一曲歌い終えると、日那乃は民衆に向かってぺこりと頭を下げた。
「鼎さん、チェンジ……」
 拍手の嵐にほんのり頬を赤くした日那乃が、ちょっぴりぶっきらぼうにつぶやく。
 再び流れる曲調がアップテンポの明るいものに変わった。
「さあ、みんなでトナカイさんを応援してくださいなのよ♪ がんばれ~、トナカイさ~ん♪ さっさと妖を退治してくださ~い、なのよ♪」
「手伝うって……飛鳥、それだけか、おいっ!?」
 頑張れ、トナカイ。君なら一人でやれる。
 たぶん死なない。


 日那乃は、送受信でプレゼントボックスの中の柿男に柿の魅力を伝えながら、プレゼントを配布することを説明した。
(「女の子たちがあとで困るから人前でやったら、だめ。……柿、きらいになる、かも。解った?」)
(「えっと、だから口で作る?」)
(「そう、口で」)
(「し、尻のほうが甘いよ?」)
(「燃されたい? 箱ごと」)
 しばらくして嫌々と言った感じで、はい、と返事があった。
 同時に一悟が炎を纏ったトンファーを豪快に振り抜いて、牙をむいて飛び掛かって来た犬の妖、最後の一体を倒した。
「は~い♪ みなさんお待ちどうさまでした、なのよ♪ いまからとってもとっても美味しい柿のスイーツをイケメンサンタさんがプレゼントしてくれるのよ♪ 大きなお友だちにはあすかサンタと日那乃サンタが手渡しします。貰ってくださいなのよ♪」
「それでは、オープン……」
 いち、に、のさん。
舞い落ちる雪の中、ボロボロトナカイと天使のように愛らしい二人のサンタが力を合わせて蓋を持ち上げた。
たちまちのうちちに甘い匂いが石畳の広場に広がっていく。
「お、お待たせ。柿の精からとっても美味しい贈り物だよ。召し上がれ」
 イケメンに変身した柿男が箱の中で立ち上がり、姿をみせると、黄色い声が上がった。目の色を変えた女子高校生、一部中学生が、我先にと両腕を突き出して突進してくる。
「ひ、ひぃぃ!?」
「引っ込むな! ちゃんとプレゼントをくばりやがれ――って、いてっ!!」
「柿男さん! 並んでっていうのよ!」
 飛鳥は日那乃とともにちゃっかり、柿男が箱の中で作った柿棒をいくつか持って素早くプレゼントボックスから離れていた。
 安全圏で柿棒を振り回しながら叫ぶ。
「はい、どうぞ。たくさん、ある。ちゃんと、並んで受け取って」
 日那乃は、これまた飛鳥と二人で作った柿スイーツのミニレシピカードを添えながら、柿棒をやじうましていた男たちにてきぱきと配っていく。
家族ずれには(良心から)柿棒ではなく、透明な袋に入れてリボンでラッピングした柿を手渡した。
 中には厚かましくも棒の受け取り時にサンタさんズの手をぎゅっと包み込むものがいた。
「……おっぱいさん、ダメ! ハウス!」
「あ、誰かと思ったらあの時の憤怒者なのよ。何しに来たのよ」
 おっぱいさんと日那乃に呼ばれた男性は、飛鳥にすごまれると頬を引きつらせた。
 以前、とある依頼で助けてやった憤怒者だ。
「元、だよ。元。改心したんだ。いまはただの善良な一般人。日那乃ちゃんの大ファンだよ」
「ファンでもなんでも順番を守らないなら悪い子なのよ!」
「……トナカイさん、悪い子がいる。燃して」
 本気の台詞を聞いて、怯えたおっぱいさんは逃げて行った。
 まあ、また懲りずにどこかで出てくるだろう。
 飛鳥の忠告が功を奏したようで、プレゼントボックス前の混沌は素早く収まり、かわりに目をキラキラさせたお姉ちゃんたちの長い行列ができていた。
 一悟は手を上げて逃げていく男の背中に、またなーと声をかけた。可愛いサンタさんたちににらまれて、プレゼントボックスの後ろに身を隠す。
(「しかしアレなぁ……」)
縁に腕をかけて寄りかかると、せっせと口に棒を突っ込んでは抜き出して、女子高校生たちに手渡している柿男を見守った。
(「……マシ? マシなのか? よく考えたらアレだってばっちいよな」)
 うん、ばっちい。
 でも、柿男が発する匂いと、日那乃&飛鳥押しのイケメンフェースのダブル効果で、お姉さんたちには素敵な贈り物にしか思えなくなっている。
 一悟は腕に顎を乗せて目を閉じると、はふっ、と息を漏らした。
(「……前半の、嫌な記憶がうまく上書きされるといいな。誰もトラウマになりませんように」)
 
――メリークリスマス。


プレゼントの配布を終えて、ショーの終了を宣言すると、三人は柿男をプレゼントボックスに押し込め、問答無用で蓋をした。
冷たい北風が広場に立ち込めていた柿男の甘い誘惑の香りを吹き飛ばすと、まずショーが始まってから加わった通行人が立ち去り、続いて夢から覚めた女子高校生たちが足早に去って行った。
最後に、ひとり、ふたり、とやじうまたちが日那乃と飛鳥に手を振りながら、それぞれ帰る場所へ向かって去っていく。
 三人で事務所までプレゼントボックスを運んだ。
 礼と着替えを済ませると、柿男に匂いを出すな、と命じて事務所を後にした。
「きょうは手伝ってくれてありがとう。ついてきて……ちゃんとお礼がしたいから」
「どこへ?」
 問いには答えず、サンタの赤い服を来た柿男はずんずんと先へ歩いていく。
 最後にお説教を、と考えていた三人はとりあえず黙ってついて行くことにした。
長い坂道の途中まで来たとき、いきなり、三人の目に赤いカラスウリが眼に飛び込んできた。一つ、三つ、四つ。柿の木にクリスマスツリーの飾り玉のように鮮やかな実がついている。枝にうっすら積もる雪に映えて夢のようだ。その柿の太い枝の突きが出た下に、池らしきものの水面が見られた。
どうやら、柿男はここから出てきたらしい。
「昔はたくさんあったんだよ、柿の木が。店を覗いてみても柿が一つも売られていないし……」
「そういうことか。まあ、あれだ、今後も活動を続けるなら、イケメンのまま、最低限のモラルを守ってやってくれよな」
 柿男は三人に微笑みかけながら、姿を消した。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし